連立合意で決まった『通称使用の法制化』
The Coalition Deal — Legalizing the 'Common Name'2025年末の自民党・日本維新の会の連立合意書には、夫婦同姓の原則を維持しつつ『旧姓の通称使用』を法制化するという一文が明記されました。高市早苗首相は就任直後から、関連法案を2026年の通常国会に提出する方針を明らかにしています。
現行制度でも、職場や金融機関で旧姓を『通称』として使うことは広がっています。ただし法律上の根拠がなく、対応は各組織の判断に委ねられてきました。今回の法制化は、この『事実上の運用』に法的根拠を与えるものです。
戸籍制度は夫婦同姓のまま。旧姓は『通称』として社会生活で使える範囲を広げる。これが高市政権が一貫して示してきた線引きです。
選択的夫婦別姓の支持者から見れば『つぶし』、反対派から見れば『最低限の譲歩』。同じ法案が両側から異なる評価を受けているのが、いまの議論の特徴です。
『旧氏の単記』という新しい論点
The 'Former Surname Only' Option2026年2月18日、高市首相は平口洋法相に『旧氏の使用拡大・周知を一層推し進めるとともに、旧氏の単記も可能とする基盤整備の検討』を指示しました。『単記』とは、住民票や運転免許証などに旧姓のみを表示するという意味です。
現在の運用では、住民票や免許証に旧姓を書く場合は『戸籍名(旧姓)』のように 併記 するのが基本です。これを旧姓だけの 単記 も選べるようにする、というのが新しい論点です。
旧姓で働き続ける実務上の不便は、併記より単記の方が解消しやすい。『戸籍制度を動かさない』という制約の中では、一定の前進と受け止める声もあります。
選択的夫婦別姓を求めてきた立場からは、『本丸の制度改正から目を逸らすための時間稼ぎ』との批判が根強くあります。住民票の表記と戸籍上の氏名が乖離することへの実務上の懸念も残ります。
なぜ『選択的別姓』は通らないのか
Why Optional Separate Surnames Stay Stuck世論調査では選択的夫婦別姓への賛成が多数を占める時期も続いていますが、国会では長年成立していません。構造的な理由は大きく3つに整理できます。
- **① 自民党内の党議拘束が働かない**:家族観に関わるテーマとして、自民党は正式に党の立場を一本化してこなかった。賛成派・反対派ともに党内に存在し、法案提出の主導者が常に不在。
- **② 保守系支持基盤の反対**:参政党・日本保守党に加え、自民党の保守系支持団体が選択的別姓に強く反対。選挙の集票構造の中で、反対派の声が相対的に大きく届く。
- **③ 最高裁判決の存在**:最高裁は2015年・2021年の2度、夫婦同姓規定を合憲と判断。『違憲判決が出れば国会が動かざるを得ない』という外圧が働いていない。
今回の『旧姓通称使用の法制化』は、この3つの制約の中で政権がひねり出した 妥協点 と見るのが自然です。本丸の戸籍制度には手を付けず、不便解消だけを前に進める——良くも悪くも、高市政権らしい現実路線と言えます。
2026年通常国会で何が決まるか
What 2026's Ordinary Diet Will Actually Decide議論の焦点は『旧姓通称使用の法制化』と『旧氏の単記』という2つの論点に絞られつつあります。選択的夫婦別姓そのものは、現政権下では採決に至らない見通しです。
| 論点 | 政府方針 | 見通し |
|---|---|---|
| 通称使用の法制化 | 2026年通常国会に提出 | 成立可能性 高 |
| 旧氏の単記 | 法相に検討指示 | 制度設計 検討中 |
| 選択的夫婦別姓 | 反対 | 採決見込み なし |
| 戸籍制度の変更 | 行わない | 現状維持 |
『選択肢が増える』ことと『制度が変わる』ことは別物です。今回の法案が通っても、戸籍上の夫婦同姓は維持されます。『何が決まり、何が決まらないか』を区別して読むことが、この議論を追うための最初の一歩です。