あなたの体は約37兆個の細胞からできていて、そのひとつひとつに「あなた」の遺伝情報が書き込まれています。生物学は「生命とは何か」を、分子の細部から地球上の生態系まで、様々な視点で問い続ける学問です。この講義では細胞・遺伝・進化・生理・生態という5つの柱を順に整理します。
ねらい — 生命現象のすべては細胞という小さな「部屋」の中で起きています。ここから生物学は始まります。
細胞は生命の最小単位です。細菌のような単純な「原核細胞(核を持たない細胞)」と、動植物や菌類の「真核細胞(核を持つ細胞)」に大別されます。真核細胞は核・ミトコンドリア・小胞体・ゴルジ体など、役割分担された「細胞小器官(細胞内の小さな器官)」を持ちます。まるで小さな都市のように、それぞれが分業して細胞を動かしています。
細胞膜はリン脂質(油と水の両方になじむ分子)が2層並んだ薄い膜で、細胞の内と外を仕切りながら物質を選んで通過させます。細胞内では ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーの「通貨」が使われていて、筋肉を動かすにも、神経信号を伝えるにも、この ATP が燃料になります。
ねらい — 親の特徴が子に伝わるのはなぜか——その答えが DNA という分子の中に書き込まれています。
DNA は二重らせん状のはしご形の分子で、A(アデニン)・T(チミン)・G(グアニン)・C(シトシン)という4種類の「文字」の並び順が遺伝情報そのものです。1953年にワトソンとクリックがこの構造を解明したことで、「情報はどう複製され、どう受け継がれるか」という長年の謎が解け、現代の分子生物学が生まれました。
セントラルドグマとは「DNA → RNA → タンパク質」という情報の流れのことです。DNA の情報がまず RNA(リボ核酸)に写し取られ(転写)、次にリボソームという装置でタンパク質に作り変えられます(翻訳)。この流れが生命活動のあらゆる場面を支えています。
ヒトゲノムには約30億文字の DNA が書かれており、その全塩基配列の読み解きが完了したのは2003年のこと。スマートフォンが普及するより前の話です。
ねらい — なぜ生き物はこんなに多様なのか——「変異×選択×時間」というシンプルな仕組みが、地球上の多様な生命を生み出しました。
ダーウィンの自然選択説は「子孫に受け継げる変異があり、その変異が生存や繁殖に有利なら、次の世代にそれが広がっていく」という理論です。特別な計画があるわけではなく、「生き残って子を残しやすいものが残る」というシンプルなフィルタリングの繰り返しです。この考えと遺伝学を組み合わせたものが「現代総合説」です。
分子系統学は、異なる生物の DNA 配列を比較することで「どの生き物が共通の祖先を持つか」を調べる手法です。見た目が似ていなくても DNA が似ていれば近縁な場合があります。化石記録と組み合わせることで、生命38億年の歴史を系統樹として描けます。
ねらい — 37兆個もの細胞がばらばらに動かず、一つの体として機能するのはなぜか——その答えが「連絡網」と「フィードバック」にあります。
ヒトの体では神経系・内分泌系(ホルモン)・循環系・呼吸系・消化系・免疫系が連携し、体内環境を一定に保とうとします(ホメオスタシスと呼びます)。体温や血糖値が大きくブレないのは、「上がりすぎたら下げる、下がりすぎたら上げる」というフィードバック機構が各システムで働いているからです。
神経系は電気信号を使って情報を瞬時に伝え(たとえば触れたことをすぐ感じる)、内分泌系はホルモンという化学物質を血液で送ってゆっくりとした調整をします(たとえば成長や生理周期)。この2つのシステムが協調することで、体は秒単位から年単位まで様々な時間スケールで環境に対応します。
ねらい — 生き物は一種類だけでは生きられません。他の生き物や環境と網の目のようにつながった「システム」として存在しています。
生態系とは「生物群集(その場所の生き物すべて)」と「非生物的環境(光・水・土壌など)」が物質とエネルギーのやり取りで結びついた系のことです。植物(生産者)が太陽エネルギーで有機物を作り、動物(消費者)がそれを食べ、微生物(分解者)が死骸を分解して土に返すという循環が基本です。
生物多様性は単に「種類が多いこと」ではなく、遺伝的多様性(同種内の遺伝子の違い)・種多様性(種の数)・生態系多様性(生態系の種類の豊富さ)という3つの層で考えます。気候変動や開発による生息地の破壊で、現在は地球史上6回目の大量絶滅が進行中とも言われています。