ボールを投げたとき、なぜ放物線を描くのでしょう?スマートフォンはどうして通信できるのでしょう?物理学はそういった「自然のしくみ」を、できる限りシンプルな法則で説明しようとする学問です。この講義では、ニュートンの運動法則から始まり、電磁気・熱・相対論・量子論・宇宙論まで、物理の大きな流れを順番にたどります。
ねらい — 「なぜ物体は動くのか」を初めて数式で答えたのがニュートンで、そこからすべての物理が始まります。
ニュートンの運動方程式 F=ma は、「力が大きいほど加速しやすく、重いほど加速しにくい」という当たり前の感覚を一本の式にまとめたものです。たとえば自転車をこぐとき、力いっぱいこぐほど速く加速し、荷物を積むほど加速しにくくなりますよね。この式は地上のボールから惑星の運動まで、あらゆる「動き」の出発点になっています。
エネルギー保存則(エネルギーの総量は変わらない)と運動量保存則(ぶつかる前後で運動の勢いの合計は変わらない)は、宇宙に隠れた「対称性(かたよりのなさ)」から生まれる根本的な法則です。振り子・ロケット・惑星の公転など、見た目はまったく違う現象でも、この2つの保存則が成り立ちます。
ねらい — 電気と磁気はじつは同じ現象の二つの顔で、その統一が「光は電磁波である」という大発見につながりました。
マクスウェル方程式は電場(電気の力が働く空間)と磁場(磁石の力が働く空間)の動きを4つの式にまとめたもので、「変化する磁場は電場を生み、変化する電場は磁場を生む」というサイクルが光を生み出すことを示しました。コンセントから電気が来るのも、スマートフォンがWi-Fiに接続できるのも、すべてこの方程式の世界です。
電磁気学は通信・発電・半導体・MRIなど、現代のほぼすべてのテクノロジーの基礎です。物理を学ぶ意義が最もわかりやすく感じられる分野のひとつで、大学で最初に触れる「本物の物理」とも言えます。
ねらい — 「熱とは何か」「なぜ時間は過去から未来へしか進まないのか」——その答えがエントロピーという概念にあります。
熱力学第一法則は「エネルギーは消えない(保存される)」こと、第二法則は「物事は自然に散らかる方向にしか進まない(エントロピーは増える一方)」ことを言います。机の上に積んだトランプが自然に並ぶことはないのと同じで、乱雑さは自然に増えていきます。これが「時間が一方向にしか流れない」理由とも結びついています。
統計力学は「たくさんの粒子が集まったとき、全体としてどう振る舞うか」を確率論で解析する理論です。気体の温度は、実は無数の分子が飛び回る速さの平均から来ています。ミクロとマクロをつなぐ橋の役割を果たします。
ねらい — 「時間は誰にとっても同じ速さで流れる」と思っていませんか?実はそうではないことを証明したのがアインシュタインです。
特殊相対性理論の出発点は「光の速さは、誰が見ても同じ」という驚くべき事実です。これを認めると、速く動く物体では時間がゆっくり進み、物体の長さが縮み、質量とエネルギーが等価(E=mc²)になるという結論が導かれます。GPSの衛星は高速で動いているため、この「時間のずれ」を補正しないと位置情報がズレてしまいます。
一般相対性理論はさらに進んで、「重力は時空(時間と空間を合わせたもの)が曲がることだ」と説明します。重い物体の近くでは時空が曲がり、その曲がりに沿って光さえも曲がります。ブラックホールや重力波の予言、宇宙が膨張しているという発見も、この理論から生まれました。
E=mc² — この式が意味するのは「質量そのものがエネルギーの塊」ということ。太陽が輝くのも、原子力発電も、この等価性のおかげです。
ねらい — 電子や光子は「粒子でもあり波でもある」——そんな奇妙な世界が原子よりも小さいミクロの世界です。
シュレディンガー方程式は「量子(非常に小さな粒子)がどう動くか」を記述する方程式ですが、古典力学とは根本的に違います。量子の「状態」は確率の波(波動関数)として表され、観測すると初めてどこにいるかが確定します。電子の居場所は「ここにある」ではなく「ここにある確率が80%」という言い方しかできません。
ハイゼンベルクの不確定性原理は「電子の位置と速度を同時に正確に測ることは、原理的に不可能」であることを示します。これは測定器が粗いからではなく、自然の根本的な性質です。スマートフォンのトランジスタやレーザーは、この量子力学なしには存在しえない技術です。
ねらい — 宇宙の始まりと、物質の最小単位——この二つの極端な問いは、じつは深くつながっています。
ビッグバン宇宙論によると、今から138億年前に宇宙は超高温・超高密度の一点から始まり、膨張を続けています。その証拠の一つが「宇宙マイクロ波背景放射」で、ビッグバンの熱の名残が現在も宇宙全体から電波として届いています。
素粒子物理学の「標準模型」は、物質を作る最小の粒子(クォーク・電子など)と、それらの間に働く力を整理した理論です。2012年に発見されたヒッグス粒子はその重要な証拠の一つですが、暗黒物質・暗黒エネルギー・量子重力など、まだ説明できないことが山積みです。