数字で見る直撃——ホンダ・日産の関税損失
The Numbers: Honda and Nissan's Tariff Losses2026年5月に主要日本自動車メーカーが2026年度通期業績予想を発表し、米国関税の影響が数字として明確になった。
ホンダ:2026年度通期関税コスト見込み4,500億円。これにより営業利益は前年度比7,134億円減の約5,000億円。前年12,000億円超から大幅な落ち込みで、過去5年間の最低水準。純利益も前年比50%超の大幅減を見込む。
日産自動車:関税コスト試算最大4,500億円。2026年度は業績回復の「踊り場」が続く見込みで、ルノーとのアライアンス再編と合わせた抜本的なコスト構造改革の加速を余儀なくされている。
トヨタ:公式試算では月間約1億2,500万ドル(約180億円/月)の関税コスト増として発表。ただし北米生産比率がホンダ・日産より高く、相対的な影響は小さい。
ブランド横断での共通認識:「2026年度は関税対応コストが業績の重荷となる特殊な年」という認識が業界全体で共有されている。
2026年度 主要日系自動車メーカー関税損失
ホンダ
関税コスト ¥4,500億営業利益見込み:¥5,000億
▲7,134億(前年比)
日産自動車
関税コスト 最大¥4,500億営業利益見込み:業績回復の踊り場
構造改革加速中
トヨタ
関税コスト 約¥180億/月営業利益見込み:北米生産比率高く相対影響小
影響は限定的
EU向け関税25%引き上げ——欧州生産拠点への追加圧力
EU Tariff Raised to 25%: Additional Pressure on European Production Sites2026年5月1日、トランプ大統領はEU製自動車・トラックへの関税を現行から25%に引き上げると表明した。直接的にはBMW・メルセデス・ボルボ等のEU系ブランドへの影響だが、日本メーカーへの波及も無視できない。
欧州生産からの米国輸出:マツダはフィンランドのValmet工場でCX-60を生産しているが、米国輸出分は今後EU関税対象になりうる。
競合比較の変化:BMWやメルセデスが米国市場で価格を引き上げれば、日本ブランドの相対的な価格競争力が改善する可能性がある。ただし日本ブランド自身も関税コストを抱えるため、恩恵は限定的。
EU×日本同時影響:欧州で事業展開する日系自動車部品メーカーは、EU側の「対米報復関税」が自動車部品に及んだ場合の影響も織り込む必要がある。欧州委員会は対米報復措置の検討リストに工業用品を含めているとされる。
EU向け関税25%引き上げ(2026年5月トランプ表明)
直接対象:EU系ブランド(BMW・メルセデス・ボルボ等)
欧州工場から米国輸出する全車両が対象
マツダのフィンランド工場産
CX-60の米国輸出分がEU関税対象になりうる
競合比較の変化
欧州ブランドの価格上昇で日本ブランドの相対競争力が一時的に改善する可能性
EUの対米報復
欧州委員会が工業用品への報復関税を検討中→日系部品メーカーへの波及リスク
生産体制の再編——「北米内製造」への加速
Restructuring Production: Accelerating 'Made in North America'関税対応の構造的解決策は「米国・カナダ・メキシコ(USMCA域内)での生産比率を上げる」ことだ。各社の対応状況:
ホンダ:2025年の米国工場拡張投資(オハイオ州・アラバマ州)に加え、EV生産ライン追加を検討中。ただし大規模な生産シフトは「2〜3年の投資期間が必要」と経営幹部が発言。
日産:スマーナ工場(テネシー州)・スマーナ工場の生産能力をフル活用しつつ、メキシコ工場でのSUV生産比率引き上げを検討。UMSCAルールに則れば関税免除の対象となる。
トヨタ:元々の北米生産比率が高く(北米販売の約7割が北米生産)、追加投資は最小限で対応可能。インディアナ州・ケンタッキー州工場の生産能力を最適化する方向。
限界:完全な「北米内製造」への転換は、部品調達(特に電子部品・半導体)の日本・アジア依存が続く限り不可能。エンジン・トランスミッション等は依然として日本輸出依存が高い。
北米生産シフトの現状と限界
トヨタ
約70%
北米販売の北米生産比率
追加投資最小限で対応可
ホンダ
拡大中
オハイオ・アラバマ工場増強
2〜3年の投資期間が必要
日産
増強検討
スマーナ・メキシコ拡充
USMCA適合なら関税免除
日米貿易協議の行方——自動車関税引き下げは交渉テーブルに
Japan-US Trade Talks: Auto Tariff Reduction on the Negotiating Tableトランプ関税に対して日本政府は継続的に二国間交渉を求めており、自動車関税の引き下げが最大の交渉テーマの一つとなっている。
日米通商協議の現状:2026年5月時点で、日本側は「自動車・農業の同時交渉パッケージ」を提案しているが、米国側は「農業の市場開放なしに自動車関税の引き下げはない」という立場を維持している。
前例:日本は2019年の第1段階日米貿易協定(農産物・デジタル貿易中心)では自動車関税の扱いを先送りした経緯がある。今回も「農業・牛肉・コメ」の市場開放と「自動車関税」のパッケージを丸ごと飲むかどうかが焦点。
業界の期待値:自動車業界団体(日本自動車工業会)は政府への働きかけを継続しているが、「2026年度内に自動車関税引き下げの合意が成立する確率は低い」というのが業界コンセンサスだ。
日米通商協議の現状(2026年5月)
自動車・農業の同時交渉パッケージ
「農業の市場開放なしに自動車関税引き下げはない」を維持
「2026年度内に合意が成立する確率は低い」が業界コンセンサス
The Brief視点——「関税コスト」は一時的ではなく「新常態」として織り込め
The Brief's Take: 'Tariff Costs' Are Not Temporary — Incorporate as the New Normal2026年の日本自動車業界の業績悪化を「一時的な関税ショック」と捉えるか、「構造変化の始まり」と捉えるかで、経営戦略の優先度が大きく変わる。
The Brief視点:関税問題は「解決するまで待てばよい一時的問題」ではなく、「今後数年間は高い関税を前提に経営せざるを得ない新常態」として捉えるべきだ。その根拠:
①トランプ政権第2期(2025〜2029年)中は根本的な関税引き下げ合意の可能性が低い ②IEEPA関税の法廷闘争は2027年以降まで長期化する可能性がある ③米国生産へのシフトには2〜5年の投資期間が必要で、短期的な緩和策は限られる
この前提に立つと、日本自動車メーカーが取るべき戦略は: ①製品価格の段階的引き上げ(価格決定力の強化):関税コストを消費者に転嫁できるブランド力を持つ車種(レクサス・ホンダ・アキュラの上位グレード)に注力する ②EV・HEV化による税制優遇の活用:米国IRAのクリーンビークル税額控除(最大7,500ドル)はUSMCA要件を満たせば適用され、関税コストを一部相殺できる ③部品の北米調達比率向上:中長期の設備投資として、サプライチェーンの北米シフトを進める
sources: ホンダIR / 日産IR / JETRO / 日本自動車工業会 / 日経新聞
「関税新常態」前提での3つの戦略
製品価格引き上げ(価格決定力の強化)
関税コストを転嫁できるブランド力を持つ上位グレードに注力
EV・HEV化による税制優遇活用
IRAクリーンビークル税額控除(最大$7,500)でUSMCA要件満たせば関税コストを相殺
部品の北米調達比率向上
中長期投資としてサプライチェーンの北米シフトを進める