都市は人類が作り出した最大の発明のひとつです。都市・地域研究は「なぜ人は都市に集まるのか」「どんな都市設計が人々を幸せにするのか」「災害にどう備えるか」を、都市計画・経済・ITの視点から横断的に考える学問です。
ねらい — 人が集まることには経済的な力があります。でも同時に、集まりすぎると様々な問題も生まれます。
現在、世界の人口の約55%が都市に暮らしており、2050年には70%に達すると予測されています。都市はなぜこれほど人を引き寄せるのでしょうか。それは「仕事・大学・文化・医療が近くにまとまっている」という便利さ、つまり集積のメリットがあるからです。
「集積の経済」とは、企業・人・知識が一箇所に集まることで生産性が上がる現象です。シリコンバレーのIT企業群や東京の大学・研究機関の密集がその例です。都市研究者のジェイン・ジェイコブズは「多様な人・機能が混ざっている場所こそが活気あるイノベーションを生む」と論じました。
一方、都市には渋滞・家賃の高騰・貧富の格差拡大・治安の悪化といった「集まりすぎのコスト」もあります。良い都市をデザインするには、集積のメリットを活かしながらこれらの課題に対処する政策が必要で、そこに都市研究の醍醐味があります。
ねらい — 街の形は偶然できるのではなく、意図的に「設計」されています。その設計の考え方を学びましょう。
都市計画とは、どこに住宅・学校・公園・道路を置くかを総合的にデザインする実践です。19世紀末、工業都市の劣悪な環境に反発したエベネザー・ハワードが「緑に囲まれた理想的な田園都市」を提唱したのが近代都市計画の出発点のひとつです。
「ゾーニング(用途地域)」は「住居地域」「商業地域」「工業地域」のように土地を用途で分ける手法です。工場のすぐ隣に住宅が建って生活環境が悪化しないようにする効果がありますが、働く場所と住む場所が遠くなりすぎて車が必要になるという批判もあります。近年は複数の用途を混在させる「ミクストユース」が見直されています。
「15分都市」とは、自転車や徒歩で15分以内に職場・学校・医療・買い物・公園がすべて揃う都市モデルです。パリが推進していることで注目されており、車に依存しないコンパクトな暮らしを実現する新しい都市デザインのキーワードです。
ねらい — IoTやAIを使って都市をより効率よく・快適にしようとする動きが世界中で広がっています。
「スマートシティ」とは、街中のセンサーやカメラからデータを集め、AIで分析し、交通渋滞・エネルギー消費・ゴミ収集・犯罪予防などを最適化する取り組みです。シンガポールや中国の深圳などが先進事例として知られています。
一方でスマートシティには批判もあります。「誰がデータを持つのか」「監視カメラで市民が常に監視される社会はいいのか」「スマートフォンを持てない高齢者はサービスを使えないのか(デジタル・ディバイド)」——技術の便利さと市民の自由・公平さのバランスが問われています。
「シビックテック」は、行政や大企業だけでなく、市民自身が技術を使って地域の問題を解決するアプローチです。たとえばスマホで道路の穴を報告するアプリや、住民参加型のハザードマップ作成などがあります。テクノロジーを「誰のために使うか」という視点が重要です。
ねらい — 日本は世界有数の自然災害大国です。「やられても立ち直れる都市」をどう作るかが問われています。
地震・津波・洪水・台風・パンデミックなど、都市は多様な災害に常にさらされています。ハザードマップとは「どのエリアに、どの程度の浸水・土砂・震度リスクがあるか」を示した地図で、住宅選びや避難計画の基本ツールです。国土地理院や各自治体のウェブサイトで無料で見られます。
「レジリエンス(resilience=回復力)」とは、災害で傷ついても素早く機能を取り戻す能力です。「絶対に壊れない街」を作ることは不可能ですが、「壊れてもすぐ立ち直れる街」を目指すのがレジリエンスの考え方です。仙台市は東日本大震災の経験を踏まえ、防災レジリエンスの国際的なモデルとなっています。
気候変動により洪水・熱波・海面上昇などのリスクが高まる中、「グリーンインフラ」という考え方が注目されています。コンクリートの堤防だけでなく、マングローブ林・透水性舗装・都市の緑地を増やすことで、自然の力を活かして洪水や熱波を和らげる発想です。