変動金利1%突破——15年ぶりの水準が既存借入者に何をもたらすか
日銀利上げの経緯と住宅ローン変動金利の推移
2024年3月
マイナス金利解除
2024年7月
政策金利引き上げ
2025年12月
追加利上げ
2026年4月
変動金利到達
家計負担試算:3,000万円借入・残期間25年で金利0.5%→1.0%上昇時、月返済額増加は約1.5〜2万円(年間18〜24万円増)
2026年4月、主要銀行の住宅ローン変動金利が1%前後(0.9〜1.1%台)に到達した。日本が「ゼロ金利政策」から脱却し始めた2024年から段階的に引き上げが続いており、2015年以来約15年ぶりの1%台だ。
金利引き上げの経緯: - 2024年3月:日銀、マイナス金利解除(▲0.1%→0%) - 2024年7月:日銀、政策金利を0.25%に引き上げ - 2025年12月:日銀、0.5%に追加利上げ - 2026年1月:三菱UFJ銀行10年固定最優遇金利が2.68%(前月比+0.42pt) - 2026年4月:変動金利が1%前後に(モゲチェック調査)
既存の変動金利借入者への影響(2026年7月返済分から反映予定): 変動金利で3,000万円借入・残期間25年の場合、金利が0.5%から1.0%に上昇した場合の月返済額増加は約1.5〜2万円。年間換算で18〜24万円の家計負担増加だ。
東京23区の新築マンション1.2億円——「普通のサラリーマン」が買えなくなった
東京23区の不動産価格(9カ月連続1億円超え)
2026年1月
新築マンション平均価格(東京23区)
2026年2月
中古マンション平均希望売り出し(70㎡)
価格高騰の主要因
建築費の恒常的上昇(2020年比30〜40%増)
首都圏新築マンション供給:過去50年で最低水準(約2.3万戸見通し)
円安を背景とした外国人・富裕層の需要継続
金利上昇と同時に進行する不動産価格高騰が、住宅購入者の選択肢を狭めている。
東京23区の不動産価格(2026年1〜2月): - 新築マンション平均価格:1億2,126万円(前年比15.8%上昇、9カ月連続1億円超え)(不動産経済研究所) - 中古マンション平均希望売り出し価格(70㎡):1億2,123万円(前年同月比34.4%上昇、1997年以降最高値)(時事ドットコム 2026.02)
価格高騰の主要因: ①建築費の恒常的上昇:資材・人件費の高騰で、同じグレードの建物を作るコストが2020年比で30〜40%上昇 ②供給絶対数の歴史的低水準:2026年の首都圏新築マンション供給戸数は約2万3,000戸と過去50年で最低水準の見通し ③円安を背景とした外国人・富裕層の需要:「日本の不動産は欧米・香港比較で割安」という認識が持続
なぜ「金利上昇=価格下落」にならないのか——東京不動産の特殊構造
教科書と現実が乖離する理由——「金利上昇でも東京は売れる」
教科書
金利↑→需要↓→価格↓
東京2026
金利↑→価格↑(継続)
供給の構造的不足
建築費高騰で採算合う価格(1億超)でしか供給できない
海外資本・富裕層の金利感応度の低さ
一括購入主流のため金利上昇が需要を抑制しない
インフレ下での実物資産選好
都心不動産を「安定資産」として保全需要が継続
経済学の教科書では「金利上昇→借入コスト増加→住宅需要減少→価格下落」という流れを説明する。しかし2026年の東京不動産市場はこの「教科書」通りに動いていない。
「教科書を覆す」要因:
①供給の構造的不足:建築費高騰と人手不足により、デベロッパーが採算の合う価格(1億円以上)でしか供給できない。低〜中価格帯のマンションは事実上「作れない」状況だ。
②海外資本・富裕層の「金利感応度の低さ」:ローンを使わない一括購入が都心高額物件では主流だ。金利上昇は購入意欲を抑制しない。
③「インフレ下での実物資産選好」:株式・債券の変動リスクより「都心不動産」という実物資産の安定性を選ぶ資産保全需要が継続している。
これらの要因が重なり、「金利が上がっても東京の高額物件は売れる」という一見矛盾した現象が続いている。
「二つの日本」——都心富裕層と郊外・地方中間層の分断
「二つの日本」——都心富裕層 vs 郊外・地方中間層の分断
外国人投資家・共働き高所得世帯
金利上昇で購入断念・空き家増加
人口減少地域は底打ち、長野・福岡・那覇郊外は値上がり
「格差の空間的固定化」が進行。全国900万戸超の空き家と東京1.2億円の新築マンションが共存する状況。
東京の高額マンション市場と、郊外・地方の住宅市場は全く異なる動きをしている。
都心(港区・千代田区・渋谷区等): - 新築・中古とも価格上昇継続 - 外国人投資家・共働き高所得世帯が牽引 - 「買えるうちに買う」という心理も作用
郊外(神奈川・埼玉・千葉郊外): - 金利上昇で購入者の資金計画が狂い、購入断念・条件引き下げが増加 - 空き家増加(2023年時点で全国900万戸超)と新規供給の競合 - 「買い手市場」に転じつつある地域も出現
地方都市: - 人口減少・産業空洞化で住宅需要が底を打っている地域も - 一方、地方移住ブームで特定のエリア(長野・福岡・那覇郊外等)は値上がり
この「二つの日本」は、不動産市場において「格差の空間的固定化」が進行していることを示す。
金利上昇に備える実践的アドバイス——今すべき5つのアクション
2026年の金利上昇に備える実践的アクション
繰り上げ返済で元本を減らす
固定金利への切り替え検討(10年固定2.5〜2.7%台)
年間返済額の点検(金利1%上昇時シミュレーション)
固定10年+変動のハイブリッド戦略で初期リスクをヘッジ
「買える」より「持続できる」——総保有コストで判断
住宅ローン借入者・購入検討者が2026年に取るべき実践的アクションを整理する。
既存の変動金利借入者の場合: ①繰り上げ返済の検討:手元資金に余裕があれば、元本を減らすことで金利上昇の影響を軽減 ②固定金利への切り替え検討:現在の10年固定が2.5〜2.7%台と高いが、「これ以上金利が上がる」と見込む場合は切り替えの検討価値がある ③年間返済額の点検:金利1%上昇時の月返済額増加額を計算し、家計が耐えられるか確認
購入検討者の場合: ④固定期間10年と変動の「ハイブリッド」戦略:当初10年固定の後に変動へ移行するタイプで、初期の金利上昇リスクをヘッジ ⑤「買える」より「持続できる」を基準に:価格高騰で「今買わないと」という焦りが生じやすいが、金利上昇×維持費×税金を含む「総保有コスト」で判断する
The Brief視点——金利正常化は「地方と郊外の再評価」につながるか
2026〜2027年の不動産市場「試金石」——金利感応型に戻るか
金利正常化が地方・郊外を再評価するシナリオ
都心高額物件の投資利回り低下→「郊外の安い物件に少額ローン」が合理的に。地方移住トレンドと組み合わさると郊外需要が回復。
外国人・富裕層需要が継続するシナリオ
非金利感応需要が引き続き強ければ「二つの日本」の分断は深まるばかり。都心価格は高止まり。
観察ポイント:2026〜2027年が「市場が金利感応型に戻るかどうか」の試金石。
日銀の金利正常化が続くとすれば、「安い金利でも都心高額物件を買う」という動機の一部が薄れる可能性がある。特に「投資目的の購入」は金利が上がるほど利回りが低下し魅力が減少する。
一方で見落とされがちな側面がある。「金利正常化は地方・郊外の再評価につながる可能性」だ。
低金利時代は「少しでも多く借りて都心を買う」という方向に資金が向かった。金利が上がれば「郊外の安い物件に少額ローンで住む」という選択の相対的な合理性が高まる。「地方移住」「二拠点生活」という2020年代のトレンドと、金利正常化による都心高額物件の相対的な魅力低下が組み合わさると、郊外・地方の不動産市場に新たな需要が生まれる可能性がある。
ただしこれは「教科書通りに市場が動く」という前提の上に成り立つ。外国人投資家・富裕層の都心需要という非金利感応需要が引き続き強ければ、「二つの日本」の分断は深まるばかりだ。2026〜2027年は日本の不動産市場が本当に「金利感応型」に戻るかどうかの試金石の年だ。