楽天グループとは何か
What is Rakuten Group?楽天グループ株式会社(東証プライム: 4755)は、1997年に三木谷浩史が創業したインターネットサービス企業である。現在は70以上のサービスを展開し、EC・フィンテック・モバイル通信・デジタルコンテンツ・プロスポーツまで、生活のあらゆる領域をカバーする日本最大級のインターネットコングロマリットだ。
ポイント:楽天の本質は単なるECサイトではなく、「楽天経済圏」と呼ばれるエコシステム全体で価値を生み出すプラットフォーム企業である。
2025年12月期の連結売上収益は2兆5,000億円(前年比+9.5%)で、29期連続の過去最高売上を更新した。連結従業員数は約29,334人、30以上の国と地域で事業を展開し、100カ国以上の国籍の社員が在籍するグローバル企業でもある。
事業は大きく3つのセグメントに分かれる。EC・トラベル・広告などのインターネットサービス(売上1.37兆円)、クレジットカード・銀行・証券などのフィンテック(売上9,759億円)、そして携帯通信事業を中心とするモバイル(売上4,828億円)だ。
楽天経済圏 — ポイントで結ばれた70のサービス
The Rakuten Ecosystem — 70+ Services United by Points楽天の最大の競争優位性は「楽天経済圏」(Rakuten Ecosystem)と呼ばれる自己強化型のエコシステムにある。一つの楽天IDで全サービスが連携し、共通の楽天ポイントがエコシステム全体の「接着剤」として機能する。
なぜ強いのか:ユーザーは楽天市場で買い物をし、楽天カードで支払い、楽天銀行に預金し、楽天証券で投資し、楽天トラベルで旅行を予約し、楽天モバイルで通信する。すべてのサービスで楽天ポイントが貯まり、使える。この循環が顧客のロイヤルティを生む。
楽天ポイントの累計発行数は2025年10月に5兆ポイントを突破した。日本の人口の70%以上が毎月楽天ポイントを獲得または利用しており、楽天ペイを含む利用可能箇所は全国500万カ所以上。会員数は1億人を超える。
楽天市場の出店料・手数料収入、楽天カードの加盟店手数料・リボ金利収入、楽天銀行の利息収入、楽天証券の取引手数料、楽天モバイルの月額利用料、各プラットフォームの広告収入——これらが相互に送客しながら複合的に収益を生む構造だ。
このクロスセリングの力学を数字で見ると、楽天カードの取扱高は26.5兆円(前年比+10.3%)、楽天銀行の口座数は1,763万口座(+7.0%)、楽天証券の口座数は1,326万口座以上と、いずれも成長を続けている。
楽天モバイル — 通信業界への挑戦
Rakuten Mobile — Challenging the Telecom Oligopoly2020年4月に本格サービスを開始した楽天モバイルは、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3大キャリアが支配する日本の通信市場に第4のキャリアとして参入した。この挑戦は楽天グループの命運を左右する最大の賭けである。
背景:日本の携帯料金は国際的に見ても割高で、政府も料金引き下げを強く求めていた。楽天はこの「風」を利用し、圧倒的な低価格で参入した。
2025年12月25日、楽天モバイルの契約回線数は1,000万回線を突破した。サービス開始からわずか5年8カ月での達成だ。オリコン顧客満足度ランキングでは3年連続1位(9部門中8部門で1位)を獲得している。
技術面では、楽天モバイルは世界初の完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークを構築した。従来の通信キャリアが専用ハードウェアに依存するのに対し、楽天は汎用サーバー上でソフトウェアベースのOpen RAN(Open Radio Access Network)アーキテクチャを採用。これにより設備投資コストの削減と、柔軟なネットワーク運用が可能になった。
2023年に取得したプラチナバンド(700MHz帯)の基地局展開も進行中で、2026年3月までに約10,661局の設置を目標としている。屋内やビル陰での通信品質が大幅に改善されつつある。
さらに2025年5月にはAIベースのRAN Intelligent Controllerを導入し、機械学習によるトラフィック予測で需要の低い時間帯に基地局を省電力モードに切り替え、最大20%のエネルギー削減を実現している。
財務の全体像 — 光と影
Financial Overview — Light and Shadow楽天グループの財務は、好調なインターネットサービスとフィンテックが稼ぐ利益を、モバイル事業の巨額損失が食い尽くすという構図が続いてきた。しかし2025年度は重要な転換点を迎えた。
転換点:2025年度、楽天モバイルは通信事業参入以来初の通年EBITDA黒字(288億円)を達成した。ただし非GAAP営業損失は-1,618億円と依然として赤字が残る。
インターネットサービスは売上1.37兆円(+6.8%)、非GAAP営業利益889億円(+4.5%)と安定した収益基盤を維持している。フィンテックは売上9,759億円(+19.0%)、非GAAP営業利益1,999億円(+30.3%)と高成長を続け、グループの利益の柱となっている。
一方、モバイルは売上4,828億円(+9.6%)を計上したものの、非GAAP営業損失は-1,618億円。ただし前年比で471億円の改善であり、損失は着実に縮小している。
連結EBITDAは4,359億円(+33.7%)と過去最高を記録したが、最終損益は-1,779億円の純損失が続く。有利子負債は約1.6兆円で、2025年上半期には約4,250億円を削減した。負債/EBITDA比率を2026年に6倍とすることを目標に掲げている。
格付け機関からは見通しが「安定的」に引き上げられ、国内初の大型永久劣後債の発行でドル建て社債からのリファイナンスも進めている。
AI戦略とRakuten Symphony — 二つの成長エンジン
AI Strategy and Rakuten Symphony — Two Growth Engines楽天は今後の成長の柱としてAIとRakuten Symphony(グローバル通信プラットフォーム事業)の2つに注力している。
楽天は独自の大規模言語モデル(LLM)を開発・運用している。2025年2月にRakuten AI 2.0(Mixture-of-Experts型日本語LLM)、12月には約7,000億パラメータのRakuten AI 3.0を発表した。これは日本企業が開発した最大級の高性能AIモデルであり、外部のフロンティアモデルと比較して最大90%のコスト削減が可能だという。
AI化の本質:楽天のAI戦略は汎用AIの研究ではなく、エコシステム内の各サービスにAIを組み込んで業務効率化と顧客体験向上を図る「実用AI」路線だ。2025年度のAIによるグループ利益貢献は255億円に達した。
2025年7月にはRakuten AI Platformを発表し、ショッピング・トラベル・フィンテック・ヘルスケアなど各サービスに「エージェントAI」を統合。将来的には70以上のアプリをAI搭載の統合スーパーアプリに集約する構想を掲げている。
楽天モバイルで実証したOpen RAN技術を世界の通信事業者に提供するB2B事業がRakuten Symphonyだ。AT&Tとの複数年にわたるパートナーシップでは、米国全土のOpen RAN展開を支援。Site Managementシステムは1万人以上のAT&T社員に導入されている。
インド(Tejas Networks)、中南米(Isbel、Simply Tech)、スリランカ(SLT-MOBITEL)、バングラデシュ(Grameenphone)など、新興国市場でもパイロット導入が進む。推定売上は2.5〜5億ドル規模で、Cisco、Airspan、Tech Mahindraとの提携によりエコシステムを拡大中だ。
投資家は何を見ているのか
What Are Investors Watching?楽天グループの株価は2026年4月時点で約755円、52週レンジは695〜1,068.5円。アナリスト13名のコンセンサスは「中立」(買い6、保留6、売り1)で、12カ月目標株価の平均は1,006円(+38%の上昇余地)だ。
投資家が最も注視しているのはモバイル事業の収益化タイムラインだ。EBITDA黒字化は達成したが、非GAAP営業損失-1,618億円がいつ解消されるかが最大の焦点である。契約者数1,000万突破は好材料だが、3大キャリアという巨大な既存勢力に対し成長を維持できるか、ARPU(1ユーザーあたり収入)の動向と解約率が鍵を握る。
モバイル損失が急速に縮小し2026〜2027年に営業黒字化、AIがエコシステムの収益性を大幅に向上、フィンテックが19〜30%の高成長を持続、グループ全体で純利益黒字を達成——この場合、株価は1,100円以上への再評価が期待される。
モバイル契約者の成長が頭打ち、ネットワーク設備投資が高止まり、金利上昇局面で有利子負債1.6兆円の利払い負担が増大、純損失が継続——この場合、株価は800円以下でレンジ相場が続く。
核心的な問い:楽天モバイルは「楽天経済圏のラストピース」なのか、それとも「終わりなき金食い虫」なのか。この問いへの答えが、楽天グループの企業価値を決定づける。
三木谷CEOは長期目標として営業利益1兆円を掲げ、2026年はその道筋を明確にする年だと位置づけている。EC・フィンテック・モバイル・AIの4つの歯車が噛み合えば、楽天は日本のテック企業として新たなステージに立つことになる。その実現可能性を見極めるために、投資家は四半期ごとの数字を注視し続ける。