シェア倍増 — 2025年の数字
Market Share Doubled — The 2025 Numbers欧州自動車市場における中国ブランドの存在感は、2025年の1年間で劇的に変わった。Schmidt Automotive Researchなどの集計によれば、EU+EFTA+UK での中国ブランド乗用車の販売シェアは2024年通年の 約5% から、2025年12月には 10% に到達した。
2025年通年の中国ブランド販売台数は 約150万台。前年同期比で +90% 超の伸びを記録した。BYD、Geely(含むVolvo・Polestar・Lynk&Co)、SAIC(MG)、Chery、Leapmotorの5社で全体の約8割を占める。
最も伸びたのは Cセグメント(コンパクト〜ミドルクラス)。BYD Atto 3、MG4、Geely EX5あたりが中核。価格帯は €30,000〜€45,000 が中心で、これは欧州メーカーのEVより約2割安い水準だ。
最大市場はスペインとイギリス、次いでドイツ・イタリア。フランスは関税ゼロ車種(PHEV)でしか入りにくい 構造だが、それでも前年比で大きく伸びた。
Audi・Renault・Stellantis(PSA系ブランド)を 販売台数で上回った という事実が、欧州メーカーの危機感を一気に高めている。
欧州市場での中国ブランドシェア
関税の壁とPHEVへの転換
The Tariff Wall and the Pivot to PHEVsEUは 2024年10月 に中国製BEVに対する相殺関税を発動した。当時の根拠は「中国政府の補助金で不当な競争優位を得ている」というもの。それから1年半が経過しても、関税の構造は基本的に維持されている。
BYD: +17.0%、Geely: +18.8%、SAIC: +35.3%。これに既存の 乗用車一律10%関税 が上乗せされる。BYDで合計27%、SAIC(MG)で45.3%。一見すると参入障壁として十分に見える。
重要なのは、この関税が BEV(純電気自動車) だけを対象にしている点だ。PHEV(プラグインハイブリッド)と通常HVは 対象外。中国メーカーはここに気づき、2025年を通じて PHEVの欧州輸出を一気に拡大 した。
2024年8月から2025年8月までの1年間で、中国製PHEVの欧州輸出は 約14倍 に増加した。BYDの "Seal U DM-i" や Chery の "Tiggo 7 PHEV" がベストセラー。「BEVが売れなければPHEVで売る」 という戦略転換が完璧に機能した。
関税で守られたはずの欧州BEV市場では、確かに中国製BEVの伸びは鈍化した。だが、PHEVを含めた「電動化全体」での中国シェアはむしろ拡大。EUの関税は意図した効果を出せていない。
EU の中国製BEVへの関税(2024年10月〜)
ハンガリー・スペイン — 現地工場という回避策
Hungary and Spain — The Local-Production Workaround関税の本質的な迂回路は 「欧州域内で生産する」 ことだ。中国メーカーはこの1〜2年で、EU加盟国に 複数の組立工場 を立ち上げつつある。
最大規模はBYDのハンガリー・セゲド工場。2025年下半期に試作生産を開始し、2026年から量産 を立ち上げる。年産能力は最終的に 20万台 を想定。ローンチモデルは小型ハッチバック Dolphin Surf(中国名 Seagull)で、欧州での販売価格は €20,000〜€34,000 の小型BEVだ。
Chery はスペインのバルセロナ近郊で、 EV Motorsの旧日産工場を引き取って組立を開始した。Leapmotor は Stellantis との合弁を通じてポーランドで小型EVの欧州向け生産を進める。「中国本社 + 欧州組立」 の二層構造が一般化しつつある。
ハンガリー、スペイン、ポーランドなどの 東欧・南欧の中所得国 は、雇用創出と税収を狙って中国メーカーを積極的に誘致している。一方、ドイツ・フランスは「欧州の自動車産業の空洞化」を理由に、EUレベルでの 追加規制 を求めている。
この構図は欧州内で 東西・南北の利害対立 を生んでいる。EU全体としては関税で守りたいが、加盟国レベルでは投資と雇用を欲しがる——という典型的な集合行為のジレンマだ。
中国メーカーの欧州域内工場
最低価格制度 — 関税の代替案
Minimum-Price Mechanism — A Tariff ReplacementEUと中国は2025年から、「最低価格制度(minimum price commitment)」 をめぐる交渉を続けている。2026年1月、ブルームバーグは「EUが関税を最低価格制度に置き換える方向で検討している」と報じた。
輸入される中国製EVに対し、メーカーごとに合意した最低販売価格 を設定し、これを下回る価格で売られた場合に追加課税する仕組み。形式は反ダンピング規制の発展型だが、関税のような一律徴収ではなく 個別合意ベース になる点が特徴だ。
中国メーカーから見ると、関税よりも 販売価格をコントロールできる ぶん、ブランドの「安売り感」を回避できる。BYDのような上位ブランドにとっては、むしろ歓迎する向きもある。
一方、欧州メーカーから見ると 「価格の床」が中国EVに有利な水準 で設定される危険があり、自社EVの価格競争力がさらに削がれる懸念がある。Stellantis・Renaultは交渉プロセスに強く介入している。
2026年4月時点で、最低価格制度が実装される時期は確定していない。だが、関税が望んだ効果を出していない以上、何らかの代替制度に移行する可能性は高まっている。2026年後半が実装の山場と見られている。
最終的に「中国EVを欧州市場から排除する」ことは、もはや現実的な選択肢ではない。論点は、「どう共存させるか」 の制度設計に移っている。
関税 vs 最低価格制度
欧州メーカーへの衝撃と日本勢への含意
Shockwaves Through European OEMs — and What It Means for Japan中国EVの欧州攻略は、欧州OEMに 二つの衝撃 を与えている。
中国メーカーの参入により、欧州市場の 「EVの適正価格」が€10,000〜€15,000下方修正 された。€40,000前後を中心に価格が形成されていた欧州EVは、€25,000〜€35,000のレンジへの 値下げ圧力 に晒されている。Stellantis・Renault・VWはいずれも2025〜2026年にEV値下げを実施した。
中国メーカーは新車の モデルチェンジサイクルが2〜3年 と、欧州メーカーの 5〜7年 に対して圧倒的に短い。BYDは年間で複数の新モデルを投入し、ソフトウェアもOTAで頻繁にアップデートする。「欧州式の長いライフサイクル」 が市場の常識から外れつつある。
VWはXpengと、Stellantisは零跑(Leapmotor)と提携して中国の開発ノウハウを取り込もうとしている。Renaultは Geely との協業でハイブリッドパワートレインを共同開発する。「対立」から「学習と提携」へ の転換が始まっている。
欧州市場での日本メーカーのシェアは小さいが、中国EVの欧州攻略は 2027年以降の北米市場 で同じことが起きる予兆として読むべきだ。米国の関税環境は厳しいが、メキシコ経由の生産 という回避路は同じ構造で存在する。トヨタ・ホンダ・日産にとって、欧州の事例は 「2年後の自分たち」 の予習材料になる。
関税は時間を稼ぐ。だがその時間で 競争力を取り戻せなければ、関税は単なる延命措置に終わる ——欧州の1年が示した教訓だ。